壁?

今回の事件は、「エンジン/ミッションはオーバーホール済みのはずなんですけど・・」という車輌でのトラブルです。 乗っていると突然3速および4速にギアが入らなくなる事があるという事。 それでは・・と思い乗ってみると1〜4速までスムーズにギアが入る。 「あれ? 何か条件があるのかな?」と思っていたら突然3速が壁にでもぶち当たったかのように入れることが出来ない。 シンクロが劣化してギアが鳴いてしまうなどではなく、ギアを入れようと思ってもシフトレバーを押し込む事が出来ない。 「何だ?」と思っていると何事も無かったかのように普通にシフトが出来てしまいます。 ということで、原因調査開始です。

症状が出ているときは、もう何をどうしてもシフトレバーを入れることが出来ません。 じゃあ、シフトリンケージか?と切り離せば、リンケージ側はガタ等も無くスムーズに稼動。 では何かの原因でクラッチが切れていないのか?とも思いますが、症状が出た時はエンジン停止状態でもシフトレバーが入りません。 ギアが回っていない状態でもダメなんです。 こうなるとあとはミッション内部しかありません。 オーバーホール済みということですが、エンジン降ろしミッション分解にて確認開始です。


エンジンを降ろし確認していくと、ガスケットやシール類も新しくなっておりエンジン分解は間違いなく行われているようです。 クラッチ回りをバラしますが、こちらも特別問題はありません。 クラッチ回りも新しく交換されています。 いよいよブロックとミッションを割り、ミッション内部の確認に入ります。 各ギアには問題なし、シンクロも新しい物に交換はされています。 シフトフォークなどの駆動部分も問題なし。 そして各ギアをバラバラにし原因が見つかりました。


簡単にギアチェンジの仕組みを説明すると、シンクロハブは中心部にエンジンの駆動が伝わっておりグルグルと回転しています。 シフト操作をするとシンクロハブが移動(左右に動くことでで1−2速、または3−4速となります)し、各ギアとかみ合う事になります。 しかし、ハブは回転していますので、各ギアと回転が合わないとスムーズにかみ合う事ができません。 その為にハブの中にシンクロリングは組み込まれておりシンクロリングが少しずつはまって行くことによってギアの回転とハブの回転が合う仕組みとなっています。 シンクロが磨耗すると回転が合い難くなりますので、ギア鳴きをしたりしてギアが入り難くなるのですね。 ちょっと下手な説明ですが何となく解りますか?



本来、この上にギアが載るのですが、見やすくするためにギアを載せていない状態となっています。 上の写真がギアが入り込む前の状態。 ここからハブがスライドしていきギアが入り込んでくると下の写真のような状態となります。 今回の問題はここにあったのですが、この写真だけで気が付いた人がいたら凄いと思います。 原因、しっかり写ってます。


さて、写真のハブは二つとも同じ部品です。 左がNGなハブ、右は正常なハブなんですが、どこに問題があると思いますか? ちょっとこの写真では解り難いかな?


こうやって拡大すると解るかと思いますが、左の赤丸で囲んだ部分をご覧ください。 内側のギアにシンクロリングが入る為の切り欠きがありますが、中途半端な位置で切られているのが解るでしょうか? 右側のギアは山の終わりできれいに切れているのが解るかと思います。


この切り欠きの位置が悪い為にシンクロリングが正規の位置に来ず、外側のギアの山に当たってしまい中に入っていかなくなってしまうのです。 その為に、ハブが移動することが出来ず、ギアが入らなくなるのですね。 今回問題のあったのは3−4速のハブでした。 しかし、これは磨耗してなったという問題ではなく、製造時からの問題であるという事。 新車時から間違いなく入らないという症状が出ていたと思われます。 あれ?とやり直したりするとシンクロリングが動いて入ってしまうので、「入り難いなぁ」と思いながら乗っていたのかもしれません。


問題のあるハブを新しい物に交換し、組み上げて確認。 問題なくスムーズにシフト出来るようになりました。 この車輌は高年式のミニだったのですが、今までに数多くオーバーホールを行いましたが、こんな状況は初めてみました。 この車輌だけの問題と考えて良いかと思っています。 オーバーホールをした時に「あれ?」と思ってもらえれば防げたトラブルですね。 本来は消耗品であるシンクロリングをしっかり交換していれば、ハブやギアというものは長持ちするものなのです。 今回の例は特別ですが、シンクロリングが磨耗してギア鳴りをさせているとダメではないハブやギアをダメにしてしまいます。 そうすると、部品代も高いんです。 騙し騙し乗っているより早めのオーバーホールの方がダメージが少なくて良いですね。 特に永くミニに乗りたい方、早めのオーバーホールをお勧めします。